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浅田次郎著『インセクト』の感想

カテゴリーが「書評」になってるんだけど、そんなに偉そうなことを書けるような身分じゃないから「読書感想文」に変えようかと思っている今日このごろですが。

 

『インセクト』は短篇集『月島慕情』に入っている短編の題名。

 

月島慕情 (文春文庫)

月島慕情 (文春文庫)

 

 もともとめんどくさがりだから俺は短篇集が好きなんだけど、特に浅田次郎氏の短篇集はけっこうたくさん読んでる気がする。藤沢周平氏とかの時代小説と一緒で、何も考えずに頭空っぽでもぼんやり時間をつぶせるのがいい。

 

それで『インセクト』。北海道の田舎の村から東京・神田にある私立大学に入るために上京してきた学生の、なんてことはない日常の話なんだけど、自分の境遇と重ねてしまったためかすごく印象に残った。

特に

東京の混沌は滾(たぎ)っているばかりではなく、滾りながら流れているのだ。生意気だと思われるくらいの主張をしなければ、自分の存在は誰も認めてくれず、手がかりも足場もないまま流されてしまうのだろう。

というところは、何の希望も軸も志望もやりたいこともない、意味のない就活をしている自分には正直ぐっとくるものがあった。

就活なんてくそくらえ。学歴をよく見てる企業だけをメインで受けて引っかかったらどこにでも行ってやる。人生なんてくそくらえ。俺の人生なんて早く終わってしまえ。もともと何やったってうまくいかないんだから! 

…おっと、脱線した。 

 

他人のプライバシイに介入しないのが、東京の掟なのだ。人間の数だけ人情が溢れているわけではなく、希釈されていることを悟はようやく知った。

というところも共感してしまった。

太宰治私小説もそうだけど、こういう文は理解できない人には理解できないと思う。強くしたたかに生きられる人には見えない世界だから。不器用で損ばかりの精神的下流層にしかわからないことが、この世にはあると思う。その世界が見えたからといっていいことは何一つなくて、見えないに越したことはないけど、確かに存在してると思う。

生まれ持って明るい性格だとか、太い神経だとか、良い見た目だとかに恵まれている人には本当にわからないんじゃないかな。こういう自分の弱さを吐露するような人のこと。

生命力のある人が作っている、彼らのためだけの社会であり世界だから、弱い人や要領の悪い人はひたすら虐げられて利用されて搾取だけされるようになっている、という事実にも、強者の人たちは気が付かないんだろうな。と思うとうんざりする。下流に漂う自分にどうすることもできない問題だから、怒りなんかは既になくて、深い絶望感だけ。

 

 

ただ、自分だってもしこのまま就職できて10年や20年経ったら、他の大勢の大人たちと同じように、『人間失格』を読んでも共感しなくなるし、上記に引用した「インセクト」の悟の思いも、ただの怠け者の愚痴としか思えなくなってるんだろうなとは思う。人生そんなもんだろう。

せめて願わくば、他者に対する思いやりや理解することへの努力は忘れないでいたいが…。

 

 

ま、暗い方から明るい方はよく見えるけど、明るい方から暗い方は見えないのが世の常だから、仕方ない。自分も一刻も早く、他人を踏み潰す側に行けるように頑張らないといけない。

人を見下して、バカにして、利用して、搾取して、徹底的に蔑んで生きている人達の側に、早く移りたい。クソの山のなかで埋もれて死んでしまう前に。一刻も早く死ねればそれはそれでもっといいのかもしれないけど。

 

俺だっていつか暗い方じゃなくて、立派に明るい方で生きてみせる! 

と呟いてみて、すごーく虚しい気持ちになった。